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最高裁判所第一小法廷 昭和31年(オ)596号 判決 1957年3月28日

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人弁護士荒谷昇の上告理由第一点について。

本件附帯控訴の申立書には、「御庁昭和三〇年(ネ)第一六四号家屋明渡事件につき被控訴人は左の如く附帯控訴を申立てる」旨の記載あり、これと右申立書記載の附帯控訴理由ことに添附の目録(金沢市長町五番丁四〇番地所在家屋)等により附帯控訴の対象である第一審裁判所(金沢地方裁判所)の判決を窺知することができるから、所論は採用できない。(所論引用の大審院判例は控訴状において第一審裁判所を確知しうべき文詞の記載ない場合の判例で本件には適切でない。)

同第二点について。

被上告人が本件契約解除の前提として履行を催告した金額が判示のごとく多額に失するものであることは所論のとおりであるが本件においては、債権者である被上告人がその請求金額全部の提供がなければこれが受領を拒絶すべき意思が明確である場合であるとは認められないから(現に原判決の確定したところによれば、上告会社は被上告人に対し本件家賃の一部として昭和二六年九月頃から昭和二九年一月頃までの間物品、手形、現金等をもつて合計九七、八〇〇円の支払をなし被上告人が異議なくこれを受領しており、本件催告も弁済期の到来した賃料中未払分全部を請求する趣旨であつたとしている)、上告会社は真実負担する債務額の提供をなすべき義務あるものといわなければならない。されば、原判決が本件催告はその中正当な未払賃料額を包含する限度において有効であると解したのは正当である。また、上告会社が商事会社であること、本件催告当時における貨幣価値等に徴すれば、右未払賃料額につき三日の催告期間を定めたからといつて、不当であるとは認められない。

同第三点について。

原審挙示の証拠並びに間接事実によれば、原判示合意の事実認定を肯認することができ、所論の違法は認められない。

同第四点について。

原判決の主文における所論変更は、第一審判決を取り消した上自判した趣旨に外ならないと解されるから、原審が民訴三八六条を適用したのは正当であつて、所論の違法は認められない。

同第五点について。

所論履行を猶予したとの主張は、原審においてなされなかつたものであることは記録上明白であるから、原判決には所論の違法は認められない。

同第六点について。

論旨第二点について説明したとおり、本件催告はその金額、期間の点において不当ではなく、また、同五点について説明したとおり、履行猶予の主張は採用できない。されば、被上告人の本件賃貸借解除権の行使が権利の濫用に当らない旨の原判示は、当裁判所においても是認することができるし、また、所論違憲の主張は、その前提を欠き採用できない。

よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 斉藤悠輔 裁判官 真野毅 裁判官 入江俊郎 裁判官 下飯坂潤夫)

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